各地のイベントから(会報175号から・2024.7.25発行)
各地のイベントからいしかわ百万石文化祭2023
「詩の祭典」 砂川公子
第38回国民文化祭 第23回全国障害者芸術・文化祭 いしかわ百万石文化祭2023「詩の祭典」では、「新しい抒情(うた)を求めて」と、日本の戦後詩がさまざまな手法を求めてやまなかった課題を主軸に掲げました。現代詩部門が毎年恒例の「詩のコンクール」では、あらゆる成長に願いを込めて「樹」をテーマに、2023年の春から夏にかけ全国に向けて、詩作品の応募を実施いたしました。この結果、小学生の部272篇、中・高校生の部330篇、一般(大学生等を含む)の部197篇、と総数799篇もの応募を賜りました。入賞作品の発表と表彰式、および朗読は、2023年11月26日に金沢ニューグランドホテルで行われました。果敢に「樹」に挑戦下さいました皆さまには心よりお礼申し上げます。
「安水稔和の人とその詩の世界」
たかとう匡子講演
2024年1月13日(土)神戸文学館で表題の講演会が行われた。会場は50名の定員を超えて大盛況であった。
たかとうさんは安水さんとお互い教師同士でもあり古くから親しい詩人で、その人となりについての話から始まった。
講演内容は安水さんの初期詩集『存在のための詩』『愛について』『鳥』の特徴として①一行の詩が短い。②1・2・3…とパート毎に書かれている。これらは安水さんの原石であり、源流であり、鉱脈である。
きわめて短い言葉の行や、一つの単語でさえ句点を付けて一行としているなど、独特の息遣いがみられる。主題を追いながら、リフレイン、対比などをしっかりといれながら、定型詩のリズムを作っている。
つぎに、安水さんのライフワークとなった江戸時代の旅行家・菅江真澄との出会いについてと話が続いた。安水さんは夏安などに旅行をされており、佐渡の帰りに『菅江真澄遊覧記』を古書店で見つけ、たちまちその虜になったという。真澄の後を追いかけて『西馬音内』『異国間』『記憶めぐり』
の菅江真澄三部作を書いた。
そして、阪神淡路大震災についての膨大な詩集である。たかとうさんが2023年1月16日に毎日新聞に掲載された享年90歳だった安水さんの追悼記事。「書いても書いても書ききれないという表現者としてのもどかしさが伝わってくる詩の言葉はさりげなく削がれ削がれて「砕けた瓦礫に/そっと置かれた/花の/くやしさ。」との4行詩になった。
ここに物に人の営みを重ねて語る安水さんの表現者としてのこだわり、手法があり、物書きとしての執念さえ伝わって来る。地元神戸のひとつの時代が終わったようで寂しい」と。
大きな拍手に包まれて閉会となった。
横浜詩人会・現代詩研究会
横浜詩人会理事 浅野言朗
横浜詩人会(佐相憲一会長・金井雄二理事長)は、神奈川県を拠点にして、全国に開かれた詩人の集まりである。会員数は百人を越え、現代詩セミナー、夏の日の詩とジャズ、詩画展など、多くのイベントを開催している。幸い、ここ数年新しい会員を多く迎えることができた。新しい会員の要望によって、詩を学ぶための勉強会である「現代詩研究会」をつくることになった。
立ち上げにあたって、理事会で協議した結果、最初の講師として、詩に関する実績と深い見識を持っておられる中島悦子さんにお願いすることとした。具体的な内容についてはご一任し、2023年度の計3回週末の午後に開催され、各回20名ほどが参加した。
第1回目では、「高村光太郎の戦後⇄戦後の谷川俊太郎」として、詩人が時代状況に対してどう向き合うか、という時宜にかなった問いかけを持った講義が行われた。世界中で戦争の頻発する時局を踏まえつつ、1940年代の第二次世界大戦をめぐる詩人の振る舞いと1990年代の湾岸戦争をめぐる詩人の振る舞いが、対比的に論じられた。第2回目では、「現代詩と私 『暗号という』を中心に」として、近作詩集をめぐって、詩集の着想、構想の深化、実現への手順までの過程が詳細に語られた。一つの詩集を素材にして、具体的で多くの示唆に富む講義となった。第3回目となる3月30日には、「言葉とイメージのストレッチ」として、クレーやルソーなどの4枚の絵を題材に、参加者全員が実際に言葉を紡ぐプロセスを体感するワークショップが開かれた。参加者はそれぞれ絵を選択し、描かれているもの・感じたことを言葉に置き換え、それを元に実際に一つの詩を書いた。ゲームのような感覚で、それぞれの詩人の詩作のプロセスや技法を披瀝し合う結果となり、大変盛り上がった。
回を重ねるに従って、大局的な演題からより実践的な内容へと深化していき、「現代詩研究会」は着実な反響と歓迎をもって迎えられた。詩の語らいの場として、「現代詩研究会」を軌道に乗せて頂いたことに、中島悦子さんに、心から感謝を申し上げたい。
「2024年 埼玉詩祭」
埼玉詩人会理事長 宮澤新樹
埼玉詩人会主催による「2024埼玉詩祭」が「詩でしか在りえないものを」をテーマに5月12日、さいたま文学館(桶川)で開催され、会員や来賓など約60人が参加した。
第一部では埼玉詩人賞の贈呈式が行われた。詩集『水の繭』で、第30回埼玉詩人賞を受賞した富田三樹生氏に賞状と副賞が贈呈された。富田氏は「詩は若者のものと思っていたが、自分は今、詩が必要と感じる。人間は歴史的存在。個人の幸せも不幸も罪も歴史の中で意味を持つ。それを表現するべく詩を書いている」と述べ、受賞詩集から長編詩「春」を朗読した。
第二部は、「第3回MYポエムコンクール」で埼玉県知事賞を受賞した元埼玉県立松山女子高校3年・磯野愛さんと吉川市立南中学校2年・加藤美詞さん(代読)が受賞作を朗読した。このコンクールは埼玉キワニスクラブと埼玉詩人会共催の社会貢献事業である。
第三部では、日本現代詩人会副理事長でH氏賞、高見順賞、萩原朔太郎賞等を受賞している杉本真維子氏が『「当事者」は言葉を持たない』」をテーマに講演した。杉本氏は、「何ものでもなく何ものでもあるという位置で詩を書いている」「詩には散文と違う詩の緊張感がある」「声にならない声、個人としての実感、人間としての実感、私は何かしたか等を表現する」「名前からでなく形から見ると表現が平らになる」「声にならない声をくみ取ると詩になる」等、現在書いている詩の在り方を述べた。また、詩集『皆神山』から「しじみ」、「室内」「皆神山のこと」等5編の詩を紹介しながら、祖父の死の事など、それぞれの詩を書いた背景等を解説。最後は子供の頃、詩を書く上で影響を受けた「ドラえもん」にまつわるエピソードもユーモラスに紹介していただいた。
注目されている詩人である杉本真維子氏の講演には、SNSを見て参加した埼玉詩人会以外の方も数人いた。
来賓として日本現代詩人会の郷原宏会長、塚本敏雄理事長も出席。「埼玉詩祭」に花を添えていただきありがとうございました。