2016年 新年の御挨拶
会長 以倉 紘平
おめでとうございます!と元気にご挨拶を申し上げたいのですが、すでに世界は、前の大戦とは様相の異なる戦争に突入してしまっているようで、気が重いです。世界は、正義と善意に貫かれているのか、悪意と謀略に満ち満ちているのか、希望と絶望の狭間で、私には、詩を書く困難だけが、増しつつあるという気が致します。
このような時、今から30年ほど前の、米ソ超大国による冷戦下の、核戦争の危機の脅威の中で、大江健三郎氏と堀田善衛氏の間で交わされた「核時代のユートピア」という往復書簡に、私は励まされます。書簡の中で、大江氏は、核兵器の脅威におしひしがれそうになっても「人間存在の破壊されえぬ顕現」への祈念について、堀田氏は、セザンヌの「トランプする男たち」という、労働者風の男たちがカードを楽しむ絵を対象に「かくも平静で、たわいのない人生を送るために人は生きている、しかし、この日常性といえども、それがそのままで描きだされ、奥行きとユーモアをもって人間の日常性として確立されるためには、セザンヌほどの大才と信念が要る」と書きました。詩を書く人間にも同じ祈念と信念が必要かと存じます。
昭和25年に創立された当会の会則は、昭和35年1月16日、あの60年安保の年―政治的な対立が激しかった時代に、村野四郎会長・黒田三郎幹事長の下で定められました。その核心は「この会は・・詩人相互の親睦をはかることを目的とする。」にあります。これは先輩詩人の叡智の結晶です。異様な危機の時代に、会員は、当会に、政治や宗教の対立を一切持ち込まず、かけがいのない日常性と人間の尊厳への〈顕現〉とを詩作品に表現する強い覚悟を持てということかと存じます。