2022年
新年のご挨拶
―寒さと貧しさと豊かさ―
会長 八木幹夫
今年こそは詩人会のさまざまな行事が無事実現することを願って止みません。冬が来ると思い出す詩があります。一九七一年から七二年まで本詩人会の会長を務めた田中冬二の作品です。
みぞれのする小さな町
みぞれのする町
山の町
ゐのししが さかさまにぶらさがって
ゐる
ゐのししのひげが こほってゐる
そのひげにこほりついた小さな町
ふるさとの山の町よ
—雪の下に 麻を煮る(全行)
凍った猪のひげの水滴に映る町。それが自分の山に囲まれたふるさと。鮮明な景色が見えてくる。感傷的な表現は削られカメラのズームアップ手法のように対象を鷲づかみする。モダニズムの影響をくぐっているが、曖昧な日本語は一つもない。麻を煮るのは冬場の農家の唯一の収入源だ。貧しさの中に深い郷愁をさそう。しかしこれは心の豊かさを象徴する詩でもある。冬二は幼くして両親を失い、母方の伯父に育てられ、銀行マンとなった。幼年期を過ごした故郷の風景は作品に度々登場する。一年のはじめに冬二の作品を紹介したのはこの詩の中にある寒さと貧しさと豊かさを改めて感じていただきたかったからです。詩は人の心の中で永く生き続けるものです。
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