詩投稿結果発表

投稿数277作、投稿者211人。多くの方にご投稿いただきありがとうございました。詩投稿第13期(4-6月)の選評および入選作をご紹介いたします。

詩投稿

H氏賞受賞者や日本現代詩人会の会員たちが入選作を選び選評いたします。

1期一人3篇までの投稿で、3ヶ月毎に選考し、入選作を選評とともに公開します。

第13期選者~15期(2019.4~2019.12)
・廿楽順治氏

廿楽順治氏
・伊藤浩子氏
伊藤浩子氏
・光冨郁埜氏
光冨郁埜氏

詳しくは投稿規定をご参照ください。皆様のご投稿をお待ちします。

日本現代詩人会とは

この会は日本の詩人の権益を団体的に守り、現代詩の普及発展のために協力し、国際的活動を推進し、詩人相互の親睦をはかることを目的としています。

日本の詩祭2019・詩集賞の朗読

「詩投稿 第13期」入選作品紹介
Topページに入選作を順次公開します。

草内ともえ――軽快に宙空

 

風はないけれど彼女が歩いているために、白い髪が背後になびいている。重力も小さいのでなかなか落ちて来ずに、どれくらいの長さか分からない。多分腰くらいまであると推察される。さらさらと、
擦れ合って音を立てている。
爪先で地面を蹴る時大して力を入れているわけでもないのに、体は軽々浮き上がり、スローモーションビデオを見ているようだ。ふわふわと熱のない砂漠上を飛んでいく彼女は、イヤホンで明るいフォークソングを聞いている。昔遠いところで流行った曲、誰かが好きだった曲で、彼女も気に入っている。
朝に飲んだ豆のスープがお腹の中で波立っている。簡易的な水たまりになった自分のお腹が体を飛び出して自立したがっているのを、彼女は分かっていた。それで両の手のひらで腹部をさすり、お腹をなだめすかしながら歩く。でも気分は晴れ晴れさっぱりとして、気付かぬうちにハミングしていたりするほどだ。
どこまでも行けるような気で目も冴え渡っていた彼女は、数歩先のところに丸いものが落ちているのを見つけた。
そばに着地すると、そっと掬い上げる。弾力のある球は、指に吸い付く感触を与えつつ震えている。表面は柔らかく、彼女がつつくとその部分が少しの間へこむ。匂いを嗅ぐ。砂漠の塩辛い匂いが染み込んでいる。裏返してみる。弾ませてみる。甘噛みしてみる。おいしくない。
彼女は思い付いて球を宙に放り投げると、落ちてきたところを両手で勢いよく挟んだ。ぱちんっと音を立てて球が弾ける。中の水が飛び散る。あ、と彼女が声を漏らした。彼女の足にもかかったのだ。
水の抜け殻をさりげなくジーンズのポケットに仕舞う。
裸足を濡らした水滴が皮膚に吸い込まれていくのを観察する。表皮が無数の手を伸ばして、体内に水分を吸収していく。二秒と経たずに肌は乾いた。
一方で、冷たい砂は水を吸わない。あちこちにできた指先サイズの池は流れるでもなく地面で落ち着いている。丸めていた足先を開いて、ニ、三粒に触れてみる。やはり砂からあっさり離れて肌の内へ消える水。
吸い込まれた水は彼女のお腹に泳いでいって、逃げたくて仕方ないたぷたぷに加勢する。奴らが細胞壁や骨なんかを気にせず傍若無人な振る舞いをするのをコントロールできない。
手近な砂を掴むと、散らばった水滴に向かって投げつける。砂は一切の摩擦を起こさず水中を通過すると、地表の砂漠へ合流する。彼
女は何度も砂をぶつける。何度したところで結果は同じだ。が、いずれ変わるものもある。
何かをきっかけにして、それぞれの小さな池の中で新しい生命が育ち始めた。初めは点だったのがほどけて線になり、伸びる、膨張する、羊水を吸い尽くして外に出てくる。天空を目指して目覚ましいスピードで生長するこの萌芽たちを、彼女は無言で見守っている。
重力が小さい分、上へ行きやすいのかもしれない。
何かになろうと必死な子供たちは彼女の奥から慈しみを引っ張り出した。冷めた目で見ているつもりだったので、勝手に眦の下がる自分に驚きを禁じ得ない。かがんでいる彼女の背をとうに追い抜いた彼らのことを、砂を潜って自身とも繋がっているように錯覚したのだ。
満たされた心地で、お腹も自由にしてあげてもいいかなと思って彼女はのたうつ腹部から手を離す。皮膚の下から出て来た臓器は足を生やし、ぴょんぴょん飛んでいく。全身で喜びを表現する自分のお腹を、彼女は愛おしい気持ちで見送る。
終わっていたフォークソングをアルバムの最初から聞き直す。ますます軽くなった体は滞空時間が長い。砂漠にできたオアシスは遥か後方に、彼女は散歩を続ける。

 

小林真代――枇杷

 

明るい時間にビールを飲んで
そろそろ帰ろうかということになって
明るい駅前道を歩いていると
どうしても根元にたどりつけないがあると
年上女友達が言い出して
ちょっと見ていますかと言うで見に行った
そこはわたし帰り道途中で
地下道を出てすぐ跨線橋
住宅が密集しているそ中に
暗渠途切れて水見えるところがある
まわりにわずかに土ある場所が残っていて
枇杷はそこに根を張っているだった
跨線橋下にもぐるように立っている古いアパート
短い私道から枇杷にいちばん近付ける
そこではわたしたちはすっかり日陰だ
それでもそこから幹まではまだ遠くて
根元まではもっと遠くて
梢はもっとずっと遠い
年上女友達病気夫を支えてくれた
あるだそうだ
お礼をしたくて根元まで行たいだが
どうしてもたどりつけないと
彼女はさも残念そうに言うだった
細かく仕切られた私有地隙間
そこへ行くことはなかなか難しそうだった
あたり人にゆるしをもらってそ敷地から
塀を越えて近付くよりほかになさそうだったが
仮にそうでたとしても
枇杷根元は暗渠よりもさらに下にあり
そこはわたしたちが枇杷をつくづく眺めているここからは
ずいぶん低い場所ようだった
年上女友達は手荒く枝を撓らせて引寄せ
もっと若い葉ほうがいいんだけどと言って
くて丈夫そうな濃緑葉をバサバサ言わせわしわし掴んだ
お城お堀を埋めてつくった線路を
ゆっくりと電車が過ぎてゆくが聞こえる
暗渠水は眠ったように静かだ
考えてみてください
いい方法があったら教えてください
そう言って年上女友達はひらひらと
踊るように地下道に消えていった
わたしは地下道へは戻らず坂をぼって
枇杷高さをぐんぐん越えて城山家へ帰った

根元へゆくことも
根元を覗込みにゆくこともしないが
それ以来通りかかれば挨拶を交わす
枇杷とはそういう仲になっただが
通りすがりに容易に手届くところには
枇杷は実をつけず
葉が黒々と繁っているばかり
見上げれば空にはみ出して
オスでもメスでもないどかさで
存分に枝葉をひろげ揺れている
今日は五月なに夏ように暑い
じんわり膝裏に汗をかながら
駅まで

 

澁澤赤――名前

 

げらげらげらげら、と、笑う、彼がきた。
彼の魅力は彼の声。低く、野太い声は少し嗄れて、また、新しい女の気を引く。
やがて死んで体が消えても声は残るだろう、
そう、思わせる程に印象的だ。そしてまた、
笑う。げらげらげらげら、と。
見た目は冷蔵庫に喩えられる。大きく、がっしりした体格だ。目は細く、髪は短い。彼が酔っ払って歩道橋の階段から落ちた時はすごい音がした。地面に叩きつけられても照れ臭そうに笑いながら起き上がった。彼は不動だ。
それに皆んなが安心する。
今度また彼に出会った時は彼の名前を紹介しよう、あなたに。卑屈で伏し目がちなあなたに。いつも実のないことに悩み、悲観的なモノの見方をするあなたに。彼の名前は彼を表す。あなたの名前は何だっけ?もう一度、聞かせて欲しい。
げらげらげらげら、と、また彼が笑っている。

 

風 守――URN

 

四十数年ぶり
電車に揺られ降り立った
田舎の小さな駅
父の生まれた故郷
父は納堂に眠っている

お寺の境内の敷地に
二階建ての納
入口に祭壇の配置図
社務所で聞いた
父の祭壇番号を確認し
建物内に入る

外界と隔てられた静かな堂内
そこには聖なる森の如くに
細長い祭壇の列が
木々のように並んでいる

父の番号のある祭壇の前に立つ
祭壇の扉を開くと自動点灯のお燈明が灯り
黄金色の世界が眼前に広がる
「久しぶりだね」
私は合掌し父にそっと語りかける

父は四十代の若さで病死
細かい片は小さなに入れられ
祭壇の下の棚に置かれている
「そちらはどう?」
冥界に住む父は何をしているのだろうか
趣味の絵でも描いているのか

「おまえこそどうなんだ?」
からくぐもった父の声が聞こえる
どう答えようか寸時迷う
「まあ、なんとか暮らしてる」
あいまいな返事
「そうか
続かない会話は生前と同じ

しばしの沈黙の後
「では帰るよ。また
その後の言葉が出てこない
私もいい年だ
今後遠方のこの地を訪れるかどうか分からない
再訪の代わりに言う
「また、会えてよかったよ」

合掌して
祭壇の扉を閉める
その時から
微かな声が聞こえる
「ありがとう、来てくれて」

堂を出る
柔らかなが境内に吹き
私を包みこむ

研究活動

詩界ニュース
詩界ニュース(2019年6月20日受まで)最終更新日 2019/8/26
催し・イベント
各地のイベントから(会報155号)最終更新日 2019/8/26

日本現代詩人会刊行本


  • 資料・現代の詩2010

  • 国際交流ゼミナール

  • 2015現代詩

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